2022.09.15
ギリシャ神話とハーブ(15)ミルラ・没薬
ギリシャ神話とハーブ(15)ミルラ・没薬
★15話16話はでクリスマスにちなんだハーブを取り上げます★
海の泡から生まれてキプロス島に上陸したアフロディテ(ローズの回でお話しましたね)は、その後キプロス島を自らの地上での本拠地としました。そのキプロスが舞台の話です・
キプロス王キニュラスとその妻ケンクレイスの間に生まれた娘ミュラは、目を見張るような美女に成長し、母は「私の娘は女神アフロディテよりも美しい」とみんなに自慢してまわります。その神をも恐れぬ思い上がりに怒ったアフロディテは、エロスに命じてミュラに金の矢を射かけさせ父親キニュラスへの猛烈な恋慕の情を燃え上がらせてしまいます。その日以来、ミュラは昼も夜も狂おしいまでの父への思慕に悩まされ、恋心と恥心の板ばさみになって苦しみます。そしてついに首を吊って自殺しようとしたところを、乳母に見つかってしまいました。理由を問いただされたミュラは自分の苦しい胸のうちを打ち明けます。驚き恐れながらも乳母は、ミュラの命を救うために道ならぬ恋を成就させてあげる約束をします。そして祭りの夜のこと、酔いつぶれた王の寝室へ乳母はミュラを忍び入らせます。「この御方は王一筋に思い焦がれておいでです。どうか一晩だけお情けを…。訳あって身分を明かすことは出来ませんので、お顔が見えないよう寝室の明かりはつけないで下さい」という申し出に、キニュラスは当然のごとく同意しました。
一晩だけの約束が毎夜続き、そして12夜目、王はどうしても女の顔を見たい欲求を抑えることが出来ず、ついに明かりをつけてしまったのです。自分に毎晩抱かれていた女が実の娘だと知ったキニュラスは、大罪を犯してしまったという神への畏れと、自分を陥れた娘への怒りで逆上し、鬼のような形相をして剣を抜くと娘に向かってきたのです。ミュラは必死で逃げ、国を去り、南アラビアのシバ王国にたどり着きました。もう生きることに疲れ果てたミュラは、この世にもあの世にも属さないものに姿を変えてくれるように神に祈りました。祈りを聞き届けた神は彼女を1本の木に変えました。ミュラが流す涙は香り高い樹液となり、人々はこの木を彼女の名前にちなんでミュラ・ミルラと呼びました。木に変身してしまったとき彼女はすでにキニュラスの子を身ごもっていました。そして、そのまま木の中で成長し10ヵ月後に樹皮が割れ幹の中から生まれたのがアドニスなのです。後にこのアドニスにアフロディテが夢中になるお話は覚えていらっしゃいますよね?